奇妙な夢

「孤風院は、もともと 旧制 熊本工業学校 の講堂だった」、「内部の大広間は床面から天井までの高さが 8 m ある」 等の断片的情報を手に、期待に胸をふくらませてポーチの階段を上がる。明治四十一年製にしては少々新しすぎる扉 (近年の作) を開くと、建築家 木島安史 のファンタジーが猛烈な勢いで目に飛び込んでくる。

移築に際して建物の奥行き方向の寸法が詰められた (中間部を省略) ことは既にふれたが、こうして誕生したキューブ (立方体) 空間に木島氏はどのような意味を与えられたのだろうか。中央部床面を敷地面のレベルまで掘り下げた理由はその辺と関係があるように思われてならない。

もと講堂であるから正面には一段高い舞台がしつらえてある。その舞台奥には凱旋門のレリーフ (浮き彫り:オリジナル) がホールを睨み、ホール反対側の入口サイド、回廊内側に移設された講堂の大扉 (オリジナル) と向い合う。これで入口が四方にあればロトンダそのものなのだが ...。

木島氏はこの建物で寝起きされていたと云う。そのために必要な居住空間は建物の四隅(舞台裏側:写真の左側 & 入口側回廊の二階:写真の右側) に退き、中央部ホール空間の非日常性が際だってくる。「ホールの一段掘り下げられた空間になみなみと湯を満たしてみたい (右下図)」 、こんな突飛な衝動に駆られるのは、この空間の非現実性ゆえかもしれない。たちこめる温泉の湯気は、萩原朔太郎の短編 『猫町 (岩波文庫 他)』 ならぬ幻想を掻きたて、向い合う二つのアーチによって守られた四角い結界の祭儀性がドラマを盛り上げる。なかなか得難い劇空間になると思うのだが如何だろう。楽器は湿気を嫌うので、音響は防水スピーカーに頼ることになろう。舞台の上ではアルバン・ベルクのモノ・オペラが延々と繰り広げられる。雄大な自然のごくありふれた空間に木島氏が刻んだ異界への入口 - 孤風院はそんなファンタジーを胎内に宿した幻想空間なのかもしれない。

孤風院内部孤風院断面イメージ
 
このページ冒頭に戻る
 
孤風院のページに戻るには、一旦この画面を閉じて下さい。

 
アップデート : 1999/5/03
by 遠山 祥一郎
e-mail :